1日目:「いざ、パリヘ」(晴)JAN/06/2004
2004年。お正月のUターンラッシュも終わり、父と娘は往復航空券とホテル3泊付きのチケット(¥86,000)を握り締め、成田発の全日空機に乗り込んだ。
旅の目的は、ある日の父と娘のこんな会話から始まった。小学校の吹奏楽部でサックスを始めたばかりの娘に「パリには地下鉄や街頭で、上手いサックス吹きがいるんだよ。そのうち連れてってあげようか?」
父は仕事でヨーロッパのワイナリーや畑にはよく行くが、プライベートの旅行は今回が始めて。ましてや娘と二人だなんて。プランを練りに練って「ケーキ屋さん」「クレープ屋さん」
食事は親父くさいのはやめよう!etc..
2日目:「めざすはピエール・エルメ」(曇)JAN/07/2004
ホテルは、オペラ座から地下鉄で2駅目。歩いて2分のところでまずまずの立地。室内はやや暗めではあるが冷蔵庫、バスタブがあるのでまあまあ快適。
近くにはいろんなタイプのレストランもあるから嬉しい。
朝食をとるためにホテルのレストランへ。ほとんどが日本人で見知らぬ者同士が旅の情報交換をしている。リピーターが結構多いのかな?さぞかし、こっちは変な親子に見えてるだろう。もろ津軽弁だし・・
さて、娘は ??。どうも様子がおかしい!実は仕事の連絡等を定期的に妻からホテルにFAXさせているが、それを見てのことだった。妻の文章にホームシックを覚えたのである。無理もない、始めての海外。全てが日本とは違うのだから。
ここは、気分転換が必要と「パリで一番有名なケーキ屋さんに連れて行ってあげよう。」ということに。めざすはピエール・エルメ。なんでも新作の発表はファッションショー並で、パリでは珍しく行列のできる店。
サン・ジェルマン・デ・プレに程近い賑やかな通りの一角にある本店は本当に目立たない。逆に言えば『らしい』雰囲気。奥に細長い店内は客で一杯。娘は「帰ろう・・。」せっかくだからと父は行列の中へ。店の人の対応は
フランスでは珍しく合理的。思ったほど待たずに今晩のデザートをget!
その夜は、行き付けの?寿司屋へ。着いたばかりとはいえ娘は何でも日本食が食べたいらしい。オペラ座近くの和食の店が多い界隈にあるコリンはお奨めの寿司屋。昨年、田酒の西田専務とボルドーを尋ねた際、帰りに寄った店。
埼玉出身のご主人曰く「パリで一番小さなレストラン」。カウンター8席と地下に4卓。しかしながら通いたくなるメニュと雰囲気。茶碗蒸と握り寿しにしばしホームシックも忘れた様?!
3日目:「モンマルトルの丘で」(小雨)JAN/08/2004
この日は朝から雨。予定通りにモンマルトルへ行くべきか?その後の出来事がどんなものかは、その時はまだ知る由もない。
モンマルトルの丘で高い絵を買わされるはめになった話はよく聞く。が、まさか自分が・・。
(以後の会話は津軽弁ではなく、お互いに変な英語であった。)
二人の絵書き風の男が親しげに話しかけてきて、まず若い方が娘に近寄り「可愛いね。おじさん似顔絵を書いてあげよう。」
すぐ様、父が「いくら?」と問いかけると「練習だからいらない。」と。少し向うでも外国人が別な絵描きに書いてもらっている。お金を渡しているようにも見えない。
「ありがとう」と握手もしている。そんなことで書いてもらう事に。そのうち年配のもう一人の方が父をも書き始める。その間の会話がまた巧い。
すっかりこっちもついついその気に・・。
そうこうしているうちに絵も出来あがりそう。ちらりと覗いてみたが、あまり似ていない。はっきりいって下手である。そしてその次の瞬間、思いもよらない事態に!
年配の男が書き終え、おもむろに使っていた写生板を裏返し指をさした。そこには1枚50ユーロ(約7000円)と書いてある。そこからサスペンスドラマが始まった。「さっき練習だ、お金はいらないと言ったじゃないか。」
「そう言ったのは彼で俺は言っていない。」 「金はない」「円でもOKよ」ドラマは続いた。父は必死だった。娘はきょとんとした顔をしていたが、とっさに娘の絵と父の絵を年配の男に返し「あんま似でねはんで、これ返す!」と言うや、「逃げるぞ。」と娘の手を引き、追ってこない事を祈りつつ一目散に逃げた。
おみやげ屋の前を逃げた。カフェの前を逃げた。娘が陸上部でトレーニングを積んだ事が生かされた瞬間でもあった。
その間ずっと胸の中で金曜サスペンスドラマの冒頭の音楽が鳴り響いていた。
もういいだろう。振り返って男たちが追ってこない安堵感にひたっていると、そこはモンマルトルの丘の反対斜面であった。偶然にも行きたかった葡萄畑が父と娘を出迎えてくれていた。
その夜、やつらに金を払った事を思えばと、少し奮発して食事をした。娘に気まずい思いをさせた反省もこめて。父「何、食べたい?なんでもいいよ!」 娘「マックが食べたい。」
オペラ座前のサックス奏者に娘は感激
最終日:「ドンペリニオンにようこそ!」(小雨)JAN/09/2004
夜の飛行機の時間まで少しある。せっかくだからとパリから列車で約90分のエペルネの町にある
モエ・エ・シャンドン社のシャンパンハウスを訪ねた。父は二度目の訪問だが、娘の将来に何らかの足しになれば
と淡い期待を寄せて・・。
まず、ゲストハウスでビデオによるシャンパンハウスの四季を見せてくれた。それに娘がなぜか興味を示した。父は美人のガイドに興味を示した。地下に入りくんだセラーの見学も結構楽しそうで、ユーロディズニーランドを押しのけ、こっちを選んだ事がうなずけた。
今回の珍道中で最も娘を頼もしく思えたのは帰りの飛行機。行きの飛行機では、父が機内で出された水さえお持ち帰りしようとするとへそを曲げて阻止した娘が、帰りは妻へのおみやげだとバター、塩、コショウにいたるまで、手付かずのミニワインをもウエストポーチにしのばせていた。そればかりか、父が眠れずウトウトとしてることを尻目に3列をしっかり使い、足を伸ばして熟睡していたこの娘は、いったい誰に似たのだろう。